『新解 ヴェニスの商人』

 

この作品の元になったのはシェイクスピアの『ヴェニスの商人』です。『ヴェニスの商人』は若き実業家・アントーニオーと金貸し屋シャイロックの闘いを描いた作品です。シェイクスピアは世界最大の劇作家と呼ばれる作家で、今から約400年前に亡くなりました。『ヴェニスの商人』は、そのシェイクスピアの代表作の1つです。

舞台となったヴェニス(ヴェネチアの英語発音)は、人類の歴史上最も長く続いた法治国家です。この国では法律が厳格に運用されていて、国家元首(ドージェ)でさえも逆らえなかったそうです。このドラマに法廷の場面が登場するのは、こうした社会状況を反映したからなのでしょう。エキゾチックな舞台と登場人物からあふれる活力が、この物語の一番の魅力です。

 

2016年2月、ぼくはこの物語の漫画化に挑むことにしました。漫画化するにあたって、足りない部分を足したり、不要な部分を削ったりして、自分好みの物語に再構築しました。(そのため原作と大きくストーリーが異なる部分があります。)
完成した作品『新解 ヴェニスの商人』はデンマークで開催された国際コンペ『Graphic Shakespeare Competition』にて特別賞を受賞しました。

 

▲授賞式会場となったクロンボー城の写真。世界遺産に指定されています。

 

一般に『ヴェニスの商人』の主人公アントーニオーは大ざっぱで豪快な人物として描かれがちです。「身内に甘く敵に厳しい人物」というのが、ぼくの最初の印象です。こうした人物像は、いささか共感しがたく好感を持ちにくいキャラクターでした。そこでぼくは、彼をピュアでナイーブな少年として描くことにしました。

 

『新解 ヴェニスの商人』のアントーニオーは友達思いで自分の町を愛する、そんな人物です。ナイーブ故に未熟さや甘さ、感情コントロールの不器用さなどの欠点がありますが、そんな短所もこのアントーニオーの魅力です。


アントーニオーのライバルになるのはシャイロックです。原作では邪悪な金貸し屋として描かれるキャラクターです。彼はユダヤ人なのですが、「人種が違う」と言う理由で多数派から差別を受けています。そのため、気の毒な人物として演出されることが多いようです。
僕は今回シャイロックが「かっこいい仇役」になるように心がけて演出をしました。情けを掛けられることなど全く望まぬ、孤高の虎のような人物にするように努力しました。「シャイロックはなぜ金にこだわるのか」という部分が原作にはなかったので、想像を膨らませてシナリオを再構築しました。
良家の御曹司のアントーニオーと貧民出身のシャイロック。こうした対比は原作にはないものですが、対立の構造を明確にすることで作品を面白くできたと思います。

 

この作品は、現在無料公開しています。

ご興味を持っていただけた方は下記のリンクからご覧ください。

横井三歩『新解 ヴェニスの商人』エピソード0(Pixiv)

受賞をきっかけにデンマークに行くこともできました。ヨーロッパの景観は非常に美しく、地域の人たちとの交流も楽しかったです。

授賞式会場のクロンボー城は『ハムレット』の舞台となったお城で世界遺産です。『ハムレット』はシェイクスピアの作品の中でもっとも有名な作品の一つです。「生きるべきか死ぬべきか。それだけが問題だ」という詩的な台詞は非常に有名ですが、父との対立のような家庭ドラマの要素、国をかけた大河的な要素、さらに幽霊まで飛び出すオカルト要素までてんこ盛りの傑作悲劇です。白水社や新潮社から出ていますので興味のある人はぜひ読んでみてください。

クロンボー城の様子は小田島雄志先生の『シェイクスピアへの旅』でも詳しく紹介されています。

デンマーク旅行の写真はこちら。